冬になると冷え性のため、足が痺れるくらいに冷え冷えの氷の世界に閉ざされ、ベッドに入ってから1時間半は眠れないヒラノです。
そんなわけで普段は足を暖める効果の高いメリノウールの靴下を愛用しています。
靴下愛がヤバすぎる人の本に出会う
先日、靴下バカ一代という本を読みました。
この方、タビオ(1968年の創業時はダンソックス)という会社を創業された会長さん。
国内最高峰の靴下を生産する、Tabioが出している靴下屋というブランドならすぐにイメージできるかと思います。
靴下屋といえば、店舗を全国展開をしていて、オシャレな街吉祥寺や、あのディズニーを擁するイクスピアリの中にもあったりして、靴下マニアにはたまらないお店なんですよね。
現在は国内291店舗、海外はロンドン2店舗、フランスに2店舗、さらに中国、台湾とかなりの数の店舗を出店しています。
わたしも何度も足を運び、靴下を購入しています。
靴下の品質はいうまでもなくもちろんいいんですが、今回は靴下ではなく『靴下オタク』の会長さんのお話になります。
この本にはその会長さんの靴下愛が詰まった濃いエピソードが満載なので、ぜひ読み進めていただきたいです。
冒頭から読者を置いていくスタイル
冒頭からぶっとびエピソードで完全に読者を突き放して行くスタイルなんですよね。なかなかヤバいです。
どんなヤバさかというと、「渋谷を歩いていたら、タイツの破れた女子が目の前を歩いていたから、ヨレてるのを履くくらいなら脱いだ方がいい」と忠告をしようとして追いかけていくような方なのです。
また、社員や家族にも呆れられるほどの靴下好きで、本書では驚きのエピソードの数々が書いてあり、靴下好きの私もビックリしてひっくり返るようなシーンの連続でした。
こんな変態的な始まり方をする本書ですが、これが意外にもビジネス書として素晴らしく、実はかなり役に立つということを先にお伝えしておきます。
丁稚奉公時代に孫子の本を読みまくる
15歳で大阪の靴下問屋へ丁稚に行く若き頃の会長。
が、この丁稚時代から仕事がどうにも上手くいかず、これではダメだと一念発起して本を購入します。
彼が最初に手に取った本は孫子。孫子の兵法書で有名なあの孫子です。
16歳から読み始めて、18歳で孫子の全編を暗記してしまうほどの入れ込みようだったそうです。
孫子はすぐには役に立つことはなく、丁稚時代はその後も先輩たちに殴られる日々でした。
その後、10年、20年と立つほどに会長の胸にしっかりと刻まれていき、最終的には経営が低迷している時に彼を救うことになります。
会長がいうには、こうです。
「会社が困っている時に、社長があやふやな判断基準をしていてはダメだ。孫子の本は判断の基準を作ってくれた。だから私は即決できるしブレがない。」
これは、自分が心から信じられる宗教に入っていると生活の方針が決まり、平穏を保てることと似ています。
その物事が正しい、間違っているではなく、「常に一定の基準がある」というのは子供の教育でもよく言われていることです。
部下達を迷わせないためにも、会長は孫子から学んだ学問を自分の物にし、実践することで結果的に会社を大きくすることができました。
デパートに行っては靴下を噛んで品質を確かめる
中でも僕が驚いたのがこのエピソード。
当時の月給は1,500円程度ですからとてもではないですが買えません。だからショーウインドーに飾ってある商品を出してもらって、店員さんの目を盗んでそっと靴下を頬に当てたり噛んだりして、感触を確かめたものです。
この方、『他のお店にある靴下を噛む』というとんでもない芸当をされます。
普通、デパートの中で商品の靴下を噛むなんて発想はないですよね?わたしはありません。
きっと、靴下への愛情と熱量がスゴすぎて、溢れでる情熱がこのような行為に及ばせたんでしょう。ヤバすぎる!
どんな分野でも、スゴい人は熱量がスゴいです。
わたしが小学生の頃、ドラえもんが大好きな「うめちゃん」という男の子がいました。
彼は、ドラえもんのセリフを完璧に覚えていたんですよね。当時、一緒にドラえもんを見ている友達のひんしゅくを買うレベルでセリフを覚えていました。
おそらく、何度も何度も観ているうちに覚えたんだと思います。
『好き』という熱量は時に人を驚くほど変貌させる力があります。
何の役にもたたなければこれも変人や狂人で終わります。
しかし、靴下屋の会長のように、良い靴下を適切な値段で売って世の中の役に立つようになると、それで生活ができるようになるというのが不思議ですよね。アスリートなんかも『好き』という意味では同じなんでしょうけど。
わたしも、人目を気にせず靴下を噛むくらいの熱量で靴下に向き合いたくなりました。
タビオの会長、アルパカの靴下を売ることで自らの店舗を持つ
タビオは創業から長らく、靴下問屋として経営されていました。つまり、自ら商品を販売する店舗は持っていませんでした。
ある時、会長はアルパカの靴下を販売します。
アルパカといえば、このブログでも紹介している最高級の靴下です。履き心地から暖かさまでどれをとっても一級品です。
ところがこいつは耐久性がてんでないんですよね。
アルパカは洗うとすぐ毛ダマになってしまい、メンテナンスが大変で、基本的にアルパカ毛から作られた靴下は手洗いを推奨しています。
会長がアルパカを販売した当時の販売店の店員は、コストダウンのためにアルバイトばかりで、商品知識がある人が少なかったそうです。
そのため、アルパカ製品はクレームの嵐にみまわれます。
彼は、「商品知識のある販売員だけで構成して欲しい」と老舗販売店にお願いしますが、これが叶わず、それなら自分でやってしまえ!とばかりに販売店舗を持ち始めます。
結果、たった数坪からはじめた靴下屋の商品は売れに売れました。ここで現在に続く靴下屋の基盤が出来上がったわけです。
大事なことは生産工場もお客様も満足すること
最近では何かと『WinWinのビジネスをしろ』といわれています。
携わっている人の何処かにしわ寄せがくるビジネスは長続きしないですよね。
この、『みんながトクをする』という方式を昔から実践してきたのがタビオの会長で、全員がメリットを得ることでビジネスが長期間続けられるわけです。
ここでは書きませんが、タビオの場合、在庫を極力減らすために工場と販売店を結ぶ独自の発注システムを採用しています。
工場は自社の物ではないので、通常であればこのようなシステムは構築できません。しかし、「みんながトクする」という信用を長年築いていればこそ、こうした仕組を作ることが出来たのでしょう。
わたしも以前、自分たちで会社をやっていたことがあるのでわかりますが、こういった独特のサービスやシステムを作るのは本当に難しいです。
「最高の靴下を適切な値段で売りたい」という熱量がなせる技は本当にスゴいですよね。
靴下好きにも、ビジネスマンにも読んで欲しい
この本を読んで、靴下の全く知らなかった世界がわかりました。
そして、実はビジネス本としての活用方法のほうが多くて、最初に手に取った印象とは全然違いました。
冒頭では「ただの変態のおっさん」が、後半には「カリスマ経営者」に変わってましたもん。何しろ会長は自分で靴下の材料の綿花を育てるくらいですからね。
正直、今でこそ高い靴下を買いまくるわたしも、10代や20代の頃は高級靴下なんて一切興味がなく、靴下など3足1,000円のもので充分だろうと思っていました。
本書によると、デフレの頃には3足1,000円の激安靴下が出た時は飛ぶように売れたそうです。
しかし数年経って、価格競争に破れた国内生産の靴下の会社は次々と倒産していき、タビオは残って、その後売上を戻しました。
1つのことを極めると、時代に関係なく勝つことができるということがわかりますよね。
ぜひ、靴下好きの方にも、ビジネスで悩んでいる方にも読んで欲しい1冊です。
ただし、『狂人』が苦手な方にはオススメできません(笑)